【2025年版】GoogleピチャイCEO「量子は5年前のAIと同じ場所にいる」──”Willow”と”Quantum Echoes”が拓く次のテック革命

AIの次は「量子」が世界を書き換える

2020年、私たちは「GPT-3」の登場に衝撃を受け、その後の5年間で生成AIが世界を塗り替える様を目撃しました。では、2030年の景色を変えるテクノロジーは何でしょうか?

GoogleのCEO、スンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)は、その答えが「量子コンピューティング」にあると確信しています。BBC Newsnightでの彼の発言は、単なる希望的観測ではありません。2024年12月に発表された量子チップ「Willow」と、2025年10月にNature誌で発表されたアルゴリズム「Quantum Echoes」という、確固たる技術的裏付けに基づいた「勝利宣言」に近いものです。

この記事では、ピチャイCEOの発言の真意と、Googleが到達した「検証可能な量子優位性」の意味を、技術的な背景を交えて深掘りします。


Googleが描く「次の5年」

BBCおよびGoogleの最新発表(2025年10月〜11月)による要点は以下の通りです。

1. 「量子は5年前のAIと同じ」

ピチャイCEOは現在の量子コンピューティングのフェーズを、AIが爆発的普及を始める直前(2020年頃)に例えました。「5年後には、量子で非常にエキサイティングなフェーズに入っているだろう」と予測しています。

2. 量子チップ「Willow」の成果(2024年12月発表)

Googleの105量子ビット・プロセッサ「Willow」は、世界最高峰のスーパーコンピュータで10^25年(10 septillion years)以上かかる計算を、わずか5分未満で完了させました。さらに重要なのは、量子ビット数を増やすほどエラー率が指数関数的に低下する「閾値以下のエラー訂正」を世界で初めて実証した点です。

3. アルゴリズム「Quantum Echoes」(2025年10月22日発表)

Nature誌に掲載されたこのアルゴリズムにより、Googleは世界で初めて**「検証可能な量子優位性(Verifiable Quantum Advantage)」を達成しました。Willowの65量子ビットを使用し、最先端スーパーコンピュータ「Frontier」より13,000倍高速**に計算を実行。しかも、その結果は他の量子コンピュータで再現・検証可能です。

4. 実用化へのターゲット

これまでの実験的なベンチマークだけでなく、材料科学、エネルギー(バッテリーなど)、創薬、核磁気共鳴(NMR)の改善といった「自然界のシミュレーション」に焦点が当てられています。UC Berkeleyとの共同実験では、Quantum Echoesを使って分子構造を解析し、従来のNMRでは得られない情報の取得にも成功しています。


なぜ今回の発表が「歴史的転換点」なのか?

単に「計算が速い」というニュースはこれまでもありました。しかし、注目すべきは、今回の発表がこれまでの「量子超越性(Quantum Supremacy)」議論に終止符を打つ可能性を秘めている点です。

1. 「検証不可能」から「検証可能」へ

2019年、Googleは「Sycamore」プロセッサでスパコンを凌駕したと発表しましたが、これには「その計算結果が正しいかどうか、スパコンで検算できない(検算に1万年かかるから)」というジレンマがありました。批評家からは「実用性のないベンチマークに過ぎない」との指摘もありました。

今回の「Quantum Echoes」は、量子力学的な「時間の反転(Time-reversal)」を利用したOTOC(Out-of-Time-Order Correlator)を測定することで、計算結果の信頼性を評価できる画期的な手法です。結果は他の量子コンピュータで再現可能であり、量子コンピュータは「速いが検証できないブラックボックス」から、「信頼できる超高速計算機」へと進化しました。

これがピチャイ氏の強気な発言の根拠です。

2. “5年前のAI”という比喩の重み

ピチャイ氏が言及した「5年前のAI(2020年)」は、Transformerアーキテクチャが成熟し、GPT-3が登場したタイミングです。

時期状況
2020年のAI「すごい文章が書けるが、何に使うかは模索中(ハルシネーションも多い)」
2025年の量子「すごい計算ができるようになったが、実用アプリはこれから(エラー訂正が課題)」

このアナロジーに従えば、今後5年で量子版の「ChatGPTモーメント」──つまり誰もがその威力を手軽に利用できるプラットフォーム化(QaaS: Quantum as a Service)が進む可能性が高いでしょう。

3. ライバルとの距離

IBMやIonQ、Quantinuumもロードマップを進めていますが、Googleは「Willow」と「Quantum Echoes」の組み合わせで、特に**創薬・材料科学(Materials Science)**のシミュレーション分野で一歩リードした印象です。特にNMR(核磁気共鳴)の精度向上への言及は、化学業界・製薬業界にとって即戦力級のインパクトを持つ可能性があります。

なお、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「真に有用な量子コンピュータは20年先」と発言していますが、ピチャイ氏やGoogleの量子チーム責任者ハルトムート・ネーベン氏は「5年以内に実用アプリケーションが登場する」と楽観的な見解を示しています。この予測の差自体が、業界の転換期を示唆しています。


まとめと次の一手

スンダー・ピチャイの予言が正しければ、私たちは今、**「量子のiPhone前夜」あるいは「量子のGPT-3前夜」**に立っています。

今のうちに量子コンピューティングの基礎原理や、自業界(特に金融、物流、化学、製薬)への影響を学んでおくことは、2030年代のビジネスを勝ち抜くための必須教養となるでしょう。

GATZ Corporationからの問いかけ: AIの進化スピードに圧倒されたこの5年でしたが、もしそのスピードで「創薬」や「新素材開発」が加速したら、あなたの生活はどう変わると思いますか?


出典・参考