「ChatGPTで下調べをして、その内容をコピーし、WordやNotionに貼り付けて整形する…」
——そんな”AIとの往復作業”に疲れ始めていませんか?
2025年11月20日、シリコンバレーのAIスタートアップGensparkが、2億7,500万ドル(約410億円)のシリーズB資金調達を発表し、評価額は12.5億ドル(約1,900億円)に到達。わずか1年半足らずでユニコーン企業へと駆け上がりました。
人気テック系YouTuber「Tech With Tim」も取り上げたこのツールは、単なるAIチャットボットではありません。検索、資料作成、コーディング、そして「AIが実際に電話をかける」機能まで搭載した、オールインワンのAIワークスペースです。
CEOのEric Jing氏は、この発表で次のように述べています。
「AIチャットボットは会話をくれましたが、仕事を片付けてはくれませんでした。プロンプトを書き、ツールを切り替え、出力を編集し続ける。それは変革ではなく、AIに手伝ってもらった雑務に過ぎません。Gensparkは、あなたの意図を伝えれば、完成した成果物を届けます」
なぜこのツールが、AI激戦区で頭角を現せたのか。その技術的背景と、我々の働き方を変える可能性について深掘りします。
果たしてGensparkの何がすごいのか?
最新の公式発表および複数のメディア報道から、Gensparkの革新的なポイントを整理します。
圧倒的な成長速度
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 評価額 | 12.5億ドル(約1,900億円) |
| シリーズB調達額 | 2億7,500万ドル(オーバーサブスクライブ) |
| ARR(年間経常収益) | ローンチ5ヶ月で5,000万ドル突破 |
| チーム規模 | 約30名 |
| ユーザー数 | 200万人以上(2024年サービス開始時点) |
リード投資家はSalesforce、Zoom、Boxを支援した実績を持つEmergence Capital Partners。SBI Investment、LG Technology Ventures、Pavilion Capital、Uphonest Capitalなど、既存投資家全員が追加出資を行いました。
「チャット」ではなく「ワークスペース」
Gensparkの本質は、「会話を提供する」のではなく「仕事を完了させる」点にあります。
同時に発表されたGenspark AI Workspaceには以下の機能が含まれます:
- AI Slides: ドキュメントから1プロンプトで取締役会レベルのスライドを生成
- AI Sheets 2.0: 自然言語で複雑なデータ分析、可視化、レポート作成
- AI Docs: 構造化されたブリーフ、FAQ、SOPを自動生成
- AI Developer: シンプルなプロンプトからWebサイトやアプリを生成・プレビュー・編集
- AI Drive: Google DriveやNotionのようなファイル管理をAIが自律的に実行
- AI Inbox: メールの文面作成から送信までを代行
- Teams統合: チームでのコラボレーション機能
Super Agent:自律型AIの到来
Gensparkの中核をなす「Super Agent」は、2025年4月にローンチされた完全自律型のノーコードアシスタントです。
すごそうな機能
- Call For Me(AIが電話をかける)
- OpenAIのRealtime APIを活用し、AIが実際に音声で電話をかける
- レストラン予約、問い合わせ、スケジュール調整などを自動化
- 日本では「退職の電話をAIに代行させる」使い方がバイラルに
- Auto Research
- 何百万語ものソースを分析し、詳細なリサーチレポートを自動生成
- 財務分析、市場調査、競合分析にも対応
- マルチモーダル生成
- 画像、動画、音声を自然言語プロンプトから生成
- プレゼン資料からマーケティング素材まで一括作成
外部ツール連携
Gmail、Google Calendar、Notion、Slackなどとネイティブ連携。さらに2025年11月にはMicrosoft Agent 365との統合も発表され、Microsoft 365エコシステム内でGensparkのエージェントを直接利用できるようになりました。
「AI支援」ではなく「AI委任」が始まっている
今回のニュースを単なる「便利なツールの紹介」で終わらせてはいけません。ここには、AI活用の進化における重要な分岐点が見て取れます。
1. 「検索(Search)」から「実行(Execution)」へのパラダイムシフト
これまでのAIツール(Perplexityや初期のChatGPT)は、主に「検索と要約」に特化していました。ユーザーは答えを得た後、それを別のツールで形にする必要がありました。
Gensparkの最大の発明は、この「答えを得る」プロセスと「成果物を作る」プロセスを統合したことにあります。
| フェーズ | 従来のワークフロー | Gensparkのワークフロー |
|---|---|---|
| 1 | 人間がAIで検索 | 人間が意図を伝える |
| 2 | AIが要約を返す | AIが検索・分析・計画 |
| 3 | 人間がコピペ | AIが資料を作成 |
| 4 | 人間が資料作成 | AIがファイル保存・共有 |
| 5 | 人間が確認・修正 | 人間が確認・承認 |
これを可能にしているのが、Mixture of Agents(MoA)アーキテクチャです。Gensparkは単なるラッパーではなく、30以上のAIモデルと80以上の専門ツールを統合し、タスクに応じて最適な「脳」と「手足」を動的に選択します。
OpenAIの公式ケーススタディによると、GPT-4.1(100万トークンのコンテキストウィンドウ)を中核に、画像生成にはGPT-image-1、リアルタイム音声対話にはRealtime APIを組み合わせています。
2. 「BingとGoogleの遺伝子」を持つ創業チーム
Gensparkの急成長には、納得の理由があります。創業者たちは検索とAIの世界的エキスパートです。
Eric Jing(景鯤)- CEO
- 元Microsoft China研究開発ディレクター、Bing検索のアジア市場開発を主導
- 小冰(Xiaoice)の父と呼ばれる会話AIのパイオニア
- 元Baidu副社長、Xiaodu(スマートスピーカー・AIアシスタント部門)責任者
- 評価額55億ドルの事業を立ち上げた実績
Kay Zhu(朱凱華)- CTO
- 元Google検索ランキング担当、Google Pandaアルゴリズムの共同発明者(2011年の最重要ランキング変更)
- 2013年、世界初のDNN検索ランキングモデルをBaiduで開発(Google RankBrainより2年早い)
- DuerOS(中国最大のAIアシスタント)の開発を先導
Wen Sang – COO
- MIT博士号取得
- エンタープライズSaaS企業「Smarking」を創業・売却した連続起業家
彼らは「ユーザーは検索結果のリンクが欲しいのではなく、解決されたタスクの結果が欲しいのだ」という思想のもと、このプロダクトを設計しています。
3. “Canvas”戦争における優位性
現在、OpenAIは「ChatGPT Canvas」、Anthropicは「Claude Artifacts」として、チャット画面の横で成果物を作成する機能を強化しています。
しかし、Gensparkは最初から「ファイルシステム(AI Drive)」と「チーム連携」を持たせている点で一歩リードしています。
| 比較軸 | ChatGPT / Claude | Genspark |
|---|---|---|
| 成果物の保存 | チャット履歴として流れる | フォルダ・プロジェクトとして蓄積 |
| チーム共有 | 手動でエクスポート | ネイティブで共有・権限管理 |
| 外部連携 | APIまたはZapier | Gmail、Calendar、Notion、Slackと直接統合 |
| 実行能力 | テキスト・コード生成が中心 | 電話発信、予約、メール送信まで |
Emergence CapitalのJoe Floyd氏はこのように評価しています。
「AIワークスペースカテゴリを注視してきましたが、ここまで自律的な実行を実現したプラットフォームは初めてです。Gensparkは単なるアシスタントではなく、完成した仕事を届けるという点で他と一線を画しています」
4. 競合との比較:Genspark vs その他
| 比較軸 | Genspark | Perplexity | ChatGPT | Claude |
|---|---|---|---|---|
| 主な強み | 成果物の完成、マルチモーダル、電話発信 | 検索精度、引用の透明性 | 汎用推論、Canvas | 長文脈、コーディング |
| アーキテクチャ | 30+ LLM + 80+ ツール | 自社モデル + 検索 | GPT-4系 | Claude系 |
| 実行能力 | スライド、スプレッドシート、電話、予約 | 検索・要約 | Canvas、コード実行 | Artifacts、MCP |
| 価格帯 | 無料枠あり、有料 $20/月〜 | 無料枠あり、Pro $20/月 | 無料枠あり、Plus $20/月 | 無料枠あり、Pro $20/月 |
「仕事を終わらせる」とは具体的に何か
Gensparkが公式に掲げる「成果物の例」は多岐にわたります。
- 取締役会向けプレゼン: 財務データを読み込み、分析、スライド化まで
- 財務モデル: Excelで動作する詳細な予測モデル
- フルスタックWebアプリ: ランディングページからバックエンドまで
- マーケティング素材: 動画、画像、コピー、ポスターを一括生成
- リサーチレポート: 引用付きの詳細な調査報告書
- 電話予約: レストラン予約、問い合わせを音声で自動化
テキサス州の大手上場不動産企業は、投資家向け資料の作成において、競合するAIツールを上回るパフォーマンスを報告しているとのことです。
注意点と今後の展望
現時点での課題も
Google Playのレビューには、良くないフィードバックも見られます。
- AI Developerで生成したWebサイトが、デプロイ時にプレビューと異なる場合がある
- クレジットが月をまたいで繰り越されない
- チャット管理(タイトル編集、ソート)の改善要望
エンタープライズ向け展開
Gensparkはエンタープライズ製品の展開を予定しており、シンガポールと日本にオフィスを開設。アジア市場への本格進出を進めています。Microsoft Agent 365との統合により、エンタープライズのセキュリティ・ガバナンス要件を満たしながら、自律型エージェントを業務に導入できる道が開かれました。
出典・参考情報
本記事は、以下の一次情報を基に構成・解説を行いました。
公式発表
- Genspark Raises $275M Series B – Business Wire(2025年11月20日)
- Genspark ships no-code personal agents with GPT-4.1 – OpenAI
- Microsoft Agent 365統合 – Microsoft News
メディア報道
- Genspark Becomes Newest AI Unicorn – Bloomberg(2025年11月11日)
- Genspark raises $275M – SiliconANGLE(2025年11月20日)
- Genspark is the latest attempt at an AI-powered search engine – TechCrunch(2024年6月)
動画
公式サイト
AIを「使う」から「任せる」への移行が始まっている
Gensparkが示しているのは、私たちがAIに対して「プロンプトを工夫して入力する」時代から、「目的を伝えてあとは任せる」時代への移行です。
10億人以上のナレッジワーカーが、日々の雑務——メール作成、会議メモの要約、スライド作成、データ分析、レポート執筆——に追われています。Eric Jing氏の言葉を借りれば、「タスクを管理することから、成果を出すことへ」のシフトが始まっています。
